信じて、信じて。
「紗季…?」

みんなが紗季の異変に気づいて、パタパタと走りながら抱きしめに向かっている。

「…また、何かされたのか」

普段無口な総長の宮井 楽-Raku Miyai-が拳を震わせながら紗季に問いかける。

「んーん、今は何もされてないよ」

紗季が問われたのに、侑が答える。きっと、答えられないと判断したのだろう。
さっき私のことを睨みながら見ていた何も知らない観客、正しい事を見ようとしない風成の人達はみんな紗季に向かっている。
当事者のはずなのに、そこにいないみたいに。私だけが取り残されている。…また、この感覚。この感覚に恐怖心を抱いている。カタカタ、少しだけ体が震える。
それを片腕で体を支え、震えが止まるようにする。
大丈夫。殴られたり罵られたりを我慢すれば済む。大丈夫、大丈夫。

「何度も言うようで悪いんですけど…」

上履きでどうやって靴の音を鳴らしてるのかはわからないけど、風成の幹部のみんなはコツコツと音を鳴らしながら近づいてくる。今近づいてきているのはメガネをかけていてカラフルヘヤーの多い族では珍しい黒髪。敬語キャラでハッカーを主にやっている。
戦闘員ではないけど、女の私には対処できる相手ではない。そこら辺に転がってる不良よりは断然強い。

「紗季に手出したらただじゃおかねぇから」

メガネをあげる動作をしながら耳元ギリギリで囁いてくる。
っ、だから何もしてないから手出す出さないじゃないんだよっ…!!

「だから何もしてないんだってば…」

「は?」

ドスッ、お腹に衝撃と激痛が襲ってくる。おえっ、と声を出してしまったが、残念ながら今胃には何も入っていない。胃液が出そうではあるが、なんとか止める。

「紗季がやられたっつってんだよ。お前がやってねぇつってもお前の信頼度は地なんだよ。」

吹っ飛ばされて壁に激突し、体が反って地面に打ち付けられた。その後でのこの言葉。
…っ、知ってるよ。信頼されてないことだって、もう信頼してもらうことも無理なことなんて。だいたい、あんた達に今何言ったって届かない。
もう疲れた、反論するのも辞めてしまおう。案外、脆かったんだ。あんた達との絆も私の心も。
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