私達の狂った歯車

本校舎を歩いていると、
「希！」
突然名前を呼ばれた。
辺りを見回すと、壁に隠れる様にして母さんがいた。
五校の桜学園の理事長、風林泉。
俺の母さんだ。

「ちょっと来て。」
母さんが周りをきょろきょろとして、手招きをする。
何故隠れる必要があるのか。
でも、コソコソしている母さんは、挙動不審で見ていて面白い。

「じ、実はね・・・。」
左手を口の横に当て、口元を隠す様にし、近くに誰もいないと言う事を確認してから、口を俺の耳元に寄せた。
「実は、一ヶ月後に転入予定だった、薙切羅音と鎖神孤廻の二人の転入が、いきなり明日になったのよぅ。私、聞いてないわ～。」

そうか。
明日帰って来るのか。
やっと帰って来る。
楽しかったあの日々が再び戻ってくるんだ。
いや、あと四人足りないな。
マリアと、百花桜の二人と、桜花の一人。
マリアはともかく、あとの三人もいずれ戻って来る。

急遽転入を早めらせたのは、多分・・・。
「桜花のアイツか？」
「え、あの子？・・・うん、多分あの子だわ。全く、面白い事が好きなんだから。後でお説教ね。まあ、何はともあれ、あの二人が帰って来るって事は、これから残りの三人も次々と桜蘭に集まって来るわね。また、賑やかになるわね。」
母さんはニコニコと微笑む。

俺が本校舎に来た理由も、羅音と孤廻の転入を早めて貰う為だった。
やっぱり、いつもタイミングが良いよな、アイツは。