私達の狂った歯車
★姫莉side★

「よろしく!」
その言葉を孤廻君と羅音君に向けて発し、すぐに自身の間違いに気付く。
うちとこの人らは住む世界が違うんや。
「あ、よろしくって言われも困るよね。ご、ごめん・・・」
うちが“よろしく”って言ったって、その言葉はただこの人らを困らせるだけなんや。
そんな事、もう学んどったはずなんやけどな。
やけど、うちは何も学んでいないかの様にその言葉が出てしまう。
うちは何も学んどらん、ただの脳無しや。
つくづく自分が嫌になって来る。

「困らないよ。よろしく」
孤廻君がうちに微笑む。
「うん!よろしくね!」
うちは何だか嬉しくなって、つい、大きな声になってまった。
「羅音君もよろしく!」
羅音君はいきなり自分に言われた事にぎょっとしとった。
やけど、すぐに口元を緩ませた。
「ああ」

羅音君の笑った顔は依恋にそっくりやったけど、何処か違っとった。
依頼とはまた違う綺麗な顔やった。艶やかな黒髪は襟足だけ赤くなっとる。
瞳も赤く、宝石の様に綺麗や。

孤廻君も身長が高い割にはあまり筋肉が付いとらんくって華奢や。
華奢な孤廻君をお人形さんの様にあしらえている髪の毛は真っ黒。
真っ黒な髪の毛の艶は女の子でさえも羨ましがる程やった。

2人の真っ白で透き通るくらいの綺麗な肌は、何処か依恋を思わせる。
2人の姿に目を奪われ、気付いた事がある。

類は友を呼ぶ。
美形の周りには美形がおる。
うちは明らかに場違いなんやないか?
うちが依恋の親友なんて名乗っとって良いんかな?
何だか申し訳ない気持ちになった。

昨日叶夜の言っとった仲間外れはこういう事なんか?

確かにそうや。
S・Aはみんな美形でスタイルが良いもんな。
うちはそれに見合う様に綺麗にならなあかん。
もっと痩せなあかん。
この学園にいる以上、彼らに見放されてはお終いや。
生きている限り、うちは彼らに見放されない様にしなあかん。
今のうちに彼らの存在はどれ程大きいか。
うちから彼らの存在を取ってまったら、何も残らへん。

父も母おらへん。
それにうちは一人っ子や。
親戚なんて一度も会った事あらへん。
いるかですら分からん。

今の家だってそうや。
あれは依恋が用意してくれた部屋。
お金だって依恋が払っとる。
おまけにうちににお小遣いだって毎月。
勿論、本人から直接やない。
家政婦から貰っとる。
やけど、家政婦のお金だって依恋が払ってくれとる。

一体どんだけうちの為にお金を使っとるんや。
うちは依恋によって生かされとる。
もし依恋の気分が変わってまったら、うちは捨てられてまう。
やから、そうならん様にうちが変わらんと。

今は自慢の友達だと思ってくれているみたいやけど、この後どうなるか分からん。
うちが変わらんと。
いつ捨てられるか分からんから、少しでも変わらんと。
変わって、少しでも長く一緒におりたい。
あわよくば、ずっと一緒におりたい。
その為には変わらんとあかん。

依恋の隣にたっても恥ずかしくない様に。
依恋の顔に泥を塗らん様に。
S・Aの顔に泥を塗らん様に・・・。
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