私達の狂った歯車
ブーブー
私が咲に相談しようとした時、バイブ音が鳴り響いた。
「申し訳ございません」
咲は立ち上がり、私に一礼する。
そして、私に背を向けて電話に出る。
「はい。あ、奥様!」
どうやら母からの電話のようだ。

咲は私より4つ歳上なのだが、友人関係や好みはともかく、電話をしている所や何かを食べている所などを見たことがない。
いつもは電話すら鳴らない。
もし、電話が鳴ったとしても真面目な咲は部屋から出て電話に出るだろう。
今回そうしなかった理由は一つだけ考えられる。
それは、事前に連絡をすると言われていたから。
それしか考えられない。
「依恋様・・・」
咲は私にスマホを差し出す。
ほら、やっぱりだ。
母が何か連絡していたのだ。
私は、iPhoneを受け取り母の声に耳を傾ける。

「もしもし」
「あ、もしもしー?依恋ー?」
「うん」
「これ真面目な話ね。青人君と貴方の結婚相手を決めたの」
この人は何を言っているのだろう。
「・・・聞いてない」
「言ってないもの。これはもう、ずっと前からの決定事項よ」
そう言って母は電話を切った。

結婚相手か・・・。
何故かあまり驚かない。
いつかこういう時が来ると分かっていた。
それが今日というだけ。
「依恋様、服装はなんでもいいとの事なので、どう致しましょう」

そうか。
今日が顔合わせの日なのか。
この様子だと咲はやはり知っていた様だ。
知っていた。ちゃんと知っていた。
私には親が、許嫁がいるという事も、その人と家の為に結婚するという事も。
それが今日というだけ。
ただ、それだけの事だ。
それだけの事なのに・・・。
叶夜との喧嘩とまだ少し残る孤廻への恋心が心の中に見え隠れする。
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