今度会ったら何をしようか
「お姉さん、さくら園まで連れて行ってもらえるかしら」
私は促されるまま、車椅子を押して歩く。
「クッキーいかがですか」
きっとこの施設の利用者さんだろう。大きな声で販売をしている男性が、私達に声をかけてくれた。
「たっくん、お客さんにクッキー見せてあげて」
その横で、職員と思われる人が笑顔で彼に伝える。たっくんと呼ばれた男性は「どうぞ」と言って、ピンク色のリボンでラッピングされたクッキーを手に取ってみせた。
「あら、今年は桜の形じゃないのね」
おばあさんが呟く。
「ええ、すみませんね。型抜きが壊れてしまって、間に合わなかったんですよ。今日は星型なんですけど、味はいつもと同じですので」
職員の男性が申し訳なさそうに答える。
「いいのいいの。私は毎年ここのクッキーが楽しみでね。お姉さん、お財布出してもらえるかしら」
私はおばあさんの鞄からお財布を取り出す。
「学生さんですか」
職員が私の顔を見て聞いてくる。
「えっ、あっ、はい」
急に質問され、少し戸惑いながら答える。
「そうなんだ。僕達の施設、色んな場所で出店してるんだけど、見かけたことあるかな」
「いえ、あの、ボランティアは初めてで。こういうお祭りも初めてなんです」
職員は「そっかそっか」と笑い
「おばあさん、良かったね。孫みたいで可愛いでしょう」
と、今度はおばあさんを見た。
「本当にねぇ。孫もこれくらいの歳だから、やっぱり可愛いわね」
ふふふと口に手をあてて答えるおばあさん。
「まぁ、僕から見てもとっても可愛いお嬢さんですよ」
そう言って、私の顔を見つめる職員に、私は頬が熱くなるのを感じた。お世辞だと分かっていても、男の人に言われた事のない言葉をかけられ、胸が高鳴る。
その人は穏やかな目をしていて、とても優しそうな印象を受ける。けしてイケメンとは言い難いが、滲み出る暖かなオーラはまるで太陽のようだ。
そんな事を考えているのもつかの間、途端に恥ずかしくなり、私は下を向いて顔を逸らす。ただただ、気恥ずかしさから逃げたかった。
「お姉さん、そろそろ戻らないと」
それを察してかどうかは分からないが、おばあさんのその声に救われ、軽く会釈をして背中を向ける。
「またどこかで会えたらよろしくね」
後ろで優しい声が聞こえた。
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