今度会ったら何をしようか
私の事、覚えていますか?
あの時、会った高校生です。

なんて、言えるはずもなく、私は俯きながら桜クッキーを見つめる。あ、桜の形だ。そっか、あの時は型抜きが壊れていたのだっけ。顔を見るのが恥ずかしくて、それでも心のどこかで気付いて欲しくて。
「さくらクッキーいかがですか」
あの人が聞く。
「桜の形なんですね」
一瞬だけ、顔を上げて答える。あの人と目が合う。それはあの時との同じ優しい眼差しで、その目に吸い込まれそうになる。
「可愛いでしょう」
「可愛いです」
ぼんやりしたまま頷くが、照れくさくて私はまた下を向く。
何か言わなくちゃ、と考えてはみるものの何を話せばいいか分からずに時は流れる。お金を渡し、クッキーを受け取り、ようやく言えたのは
「またよろしくお願いします」
その一言だった。
私は逃げるようにその場を立ち去る。

車に乗り込むと、全身の緊張が解れたように座席に寄りかかる。一気に力が抜けていく。まだ、胸がドキドキしている。それはしばらく落ち着かず、だけど自然に笑みがこぼれる。
良かった。まだ働いてたんだ。
でも、なぜこんなにドキドキしているのだろう。夢を抱かせてくれた人に会っただけなのに。憧れのような気持ちの中に、浮かんでくる別の感情。
駄目だ。そんな邪な気持ちで実習なんかしてはいけない。そう、これはただの憧れ。あの人は私が理想とする福祉職員。
そう言い聞かせ、私はエンジンをかけた。
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