今度会ったら何をしようか
不揃いに切られた胡瓜を咀嚼しつつ、僕は箸を止める。
「お肉食べてないよね。サラダもドレッシングかけてないよね」
「大丈夫だよ。約束は守っているよ」
「私は斗真が太らないように言っているんだからね。約束破ったら私がどうなるか分かってるよね」
脅迫めいた言葉に、心が苦しくなりながらも、僕は笑みを浮かべてみせる。
「大丈夫だから。僕の体を気にしてくれてありがとうね」
優子は安心したように、「どういたしまして」と言って、パンをちぎり始める。
いつだって、僕らは味気のない料理を二人黙って食べる。彼女も表情を変えることなく口に運び、僕もまた彼女と同じように静かに食べる。そこに楽しいお喋りなんか無くて、まるでモノを摂取するだけの作業のような風景だ。

一もう、限界だ一

湧いてくる感情に、僕は箸を止めた。いつまでこんな関係を続けるつもりなんだ。優子との明るい未来が想像出来ない。プロポーズ?結婚?無理だ。無理なのだ、優子とは。

「優子」
僕は決心して口を開く。
「なに、どうしたの」
きょとんとした顔で優子は咀嚼を続ける。
「別れよう」
時が止まるとはこのような事なのか。優子は咀嚼をやめて、凍りついたように動かない。
「別れてください」
僕がもう一度口を開くと、優子は突然立ち上がり、ローテーブルを蹴り上げた。
「何言ってるの」
そう叫び、僕に掴みかかると首元に手をかける。細い指に力が込められる。こんなにも優子に力があるとは思わなかった。
「落ち着いて話そう」
「嫌だ」
「ちゃんと話を聞いて」
「嫌だ」
「座って、優子」
青白い優子の指をそっと外す。優子の目からは大粒の涙がこぼれ、嗚咽を漏らす。
「僕はこれまで、優子を傷付けた事はあったかな。僕は君の弱さを受け止めて愛してきたつもりだった。だけど本当は対等に、君と対等に愛し合っていきたかった」
「斗真は私を愛していないの」
「愛してる。だけど、それは」
偽りの愛だったんだ。言い出せずにぐっと言葉につまる。言おうか迷っていた時だった。

「斗真は別れられないよ」
泣いていたはずの優子が顔を上げ、不敵に笑う。
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