今度会ったら何をしようか
「介護施設のボランティアをやっていたので、その感覚でお話してしまいました」
「ううん、基本的には同じことだから大丈夫だよ」
「はい、今回の実習では知的障害のある方とのコミュニケーションを中心に学んでいきたいと思うのですが」
彼女は鞄からファイルを取り出し、実習計画書を僕に渡す。
「わぁ、手書きで出したのこれ」
丁寧で綺麗な字がびっしりと並ぶ。
「ええ、そういうルールなんです」
学生も大変だ。今の時代、パソコン入力の方が多いと思っていた。
「大変だったでしょう」
「いえ、楽しかったです」
大倉さんはくすりと笑うと目を輝かせる。
「実習が楽しみで仕方がなかったので」
「そうなんだ」
いつぞやに来た学生とは大違いだ。これなら期待できそうだ。
僕は彼女の実習計画を綿密に打ち合わせし、彼女の緊張が解れたところで、問いかける。
「大倉さん、今日はU市から来たんだよね。三週間長いけど、通うの大変じゃないかな」
「ええ、最初は通おうと思ったんですけど、夏休みは実家に帰る事になったので大丈夫です」
彼女がそう話す時、一瞬顔が曇ったように見えた。だがすぐに元の表情に戻る。
「分かりました。では、車で来てください」
職員駐車場に停めるように説明をする。彼女は聞き漏らさないようにサラサラとメモにペンを走らせる。ジャケットからちらりと見える細い手首、俯くとよく見える長い睫毛、束ねた髪から覗く首元に
「大倉さんって綺麗だね」
思わず口に出してしう。しまったと思い慌てて口を塞ぐが、彼女は慌てたように手をばたつかせる。
「えっ、あっ、そんな事ないです」
挙動不審に体を揺らす様がおかしくて、僕は吹き出してしまう。上品な女性から一転、急に子供っぽい表情に変わった彼女に少し驚きつつも、もう少しそんな様子を見ていたくなる。
「ごめん、可愛いねの間違いだった」
「そんな、えっ、違いますから」
からかう度にぶんぶんと首を振る姿は年相応か、それよりも幼く見える。そんなギャップがただただ楽しかった。
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