今度会ったら何をしようか
「ごめんね、なんだか大倉さんって見た目はものすごく真面目な印象だったけど、ちょっとイメージ変わったかも」
僕はいつの間にか敬語を忘れていたが、そんな事も気にならないほど、おかしくて仕方がなかった。
「勘弁してください」
彼女は大げさに手を振り否定をしたが、その表情はやわらげで楽しそうだった。
「時間まだ大丈夫なら、作業の様子見てみようか。利用者さんも大倉さんが気になるみたいだし」
彼女は「はい」と答え立ち上がる。一番初めにミサンガ作りの部屋に行くと、大倉さんは「お邪魔します」と言って周りを見渡す。ミサンガ作りをする利用者は黙々と机に向かい、彼女が入ってきてもお構い無しだ。
「こんにちは」
大倉さんは明るく挨拶をし、みかちゃんの横で作業を見つめる。みかちゃんは気にする様子もなく、ただただ手順よく糸を編み込んでいく。
「すごい、綺麗」
大倉さんは少しずつ出来上がっていくミサンガに驚いた様子で呟く。
「大倉さん、この人はみかちゃん。重度の自閉症なんだけど、とっても手先が器用なんだ。作業が始まると職人さんみたいになるんだよ」
「みかさん、とってもお上手ですね」
大倉さんは朗らかに笑みを浮かべる。それが作られた笑みではなく、自然とこぼれたものに見える。みかちゃんは返事をしないが、それでも大倉さんは気にすることなくやわらかな眼差しのままだ。その嫌味の無い表情に、僕は心を揺さぶられる。彼女の純粋さを感じたからだ。この子はどこかいままでの実習生とは違う気がする。もし実習担当が林さんだったら、泣いて喜びそうな人だ。
「大倉さん、次はお菓子作り班に行ってみようか」
作業の邪魔をしないように、あえて利用者に声をかけず静かに見守っている彼女に声をかける。こういった気配りも、職員にとっては有難いのだ。
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