今度会ったら何をしようか
少し気まずい雰囲気の中、お菓子作り班の元に行くと、調理室のガラス越しにエプロン姿のたっくんが手を振るのが分かった。
「ここがお菓子作り班。調理室でクッキーとか焼き菓子を作って、その横では袋にシール貼ったり、値札作ったりしているんだ」
部屋に入ると、調理の下準備をしていた利用者が手を止めて一斉に大倉さんを見つめる。
「実習のお姉さんだ」
アイちゃんが嬉しそうに声を出す。マスクを外そうとするアイちゃんを見て、支援スタッフは注意をする。アイちゃんはそれでもおくびれる事無く、キラキラと目を輝かせ、ゆらゆらと体を揺らす。とっても上機嫌だという合図だ。
「こんにちは、夏休みに実習でお世話になる大倉椿です」
その声に、利用者はわーっと手を叩き歓迎モードだ。先程のミサンガ班との違いに、彼女は少し戸惑った様子だ。
「お菓子作り班は、とっても明るい方が多いんだ。あと、食べる事も好きなんだよね」
僕はたっくんを見ていじわるく笑う。
「穂波さんもつまみ食いするじゃんか」
からかわれて躍起になったたっくんが言い返す。
「あれは売り物にならなかったやつです」
僕は真面目ぶった調子で答えると
「でも時々、穂波さんがみんなで食べようってクッキー分けてくれるの」
アイちゃんが大きな声で間に入る。それを聞いていた支援スタッフが、「そうなんですか」と驚き、その場の雰囲気が盛り上がる。スタッフはアイちゃんに「どういうことなの」と聞き、たっくんや他の利用者がわいわいと騒ぐ。大倉さんはその様子が面白かったのか、くすくす笑う。
「なんだか楽しいよね」
うるさいほどの盛り上がりの中、彼女に耳元で声をかける。その瞬間、ぴくりと体を揺らすのが分かった。 そんな反応が可愛かった。
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