今度会ったら何をしようか

「お疲れ様」
一通り、施設を案内した僕は再び食堂に戻り、彼女にコーヒーを出す。大倉さんは律儀に
「あの、お構いなく。学校からも言われているので」
と遠慮がちに断った。
「お腹の中に入っちゃえば分からないよ」
気にしないの、と僕が先にカップに口をつけると、観念したように大倉さんも手に取る。
「昼食はここで利用者さんと食べてもらうね。本来なら同じ食事とってもらいたいんだけど、職員は基本持ち込みなんだ。お味噌汁とかスープは出せるからお弁当とか持ってきてもらえるかな」
「分かりました」
彼女は頭を下げ、そしていただきますと言って一口コーヒーを飲む。
「今更だけど、コーヒー苦手だったかな。紅茶もあるから無理しないで」
慌てて問いかけるが、
「いえ、コーヒー大好きです」
気にすることなく彼女は言葉を続ける。
「さくらクッキー、この前初めて食べたんですけど、美味しかったです」
「お口に合って良かったです」
彼女はふふふと思い出したかのように嬉しそうだ。
「でも、すごい偶然だよね。あの日のお客さんが実習に来るなんて思ってもみなかったよ」
「偶然じゃないです」
彼女はぱっと顔を上げ、真剣な面持ちでまっすぐ僕を見た。
「偶然じゃないんです」
彼女はもう一度そう言って、カップを置いた。
「私があのスーパーに行ったのは偶然でした。あそこで穂波さん達が販売していたのも偶然でした。でも」
そこまで言った途端、彼女は少し言葉を選ぶように考え
「私は、穂波さんに会いたくてあそこに行ったのかもしれません」
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