今度会ったら何をしようか
僕は一気に熱が上がったんじゃないかと思った。思ってもみなかった事を言われ、ひどく動揺する。僕は「えっ」と口にし、わけが分からないよといった表情だったと思う。
「冗談です」
大倉さんはあどけなく笑う。
「こら、大人をからかわないの」
僕はそう言ったものの、どこかで残念な気持ちを抱え、その次の刹那、一回りも下の女の子にからかわれなんとも言えない気持ちになる。
「さくら園で実習したいとずっと思ってたんです。教授にも希望を出していて、だから道を覚えようと思って近くまで来たんです。母校の側だった気がしたから」
「もしかしてS高?」
「ええ、そうです」
S高といえば、何年か前から時々ボランティアで来てくれる。年に一回のお祭りの時とかに、利用者さんの付き添いなどをお願いしたり。その事を伝え、問いかける。
「もしかして、高校の時にボランティアに来てくれたとか」
「いえ、ボランティアでは来ていないです。卒業したのももう三年前ですし」
そっか、彼女が卒業してからS高校はボランティアに来てくれているのか。
「でも、穂波さんの事は知ってました」
「どこかで会ったかな」
うーんと考えてみるが、全く思いつかない。
「他の施設ででボランティアしている時に、少しだけお会いしたんです」
彼女は当時を思い出すように口を開く。
「ごめんね、ちょっと思い出せなくて」
「いえ、本当に一瞬だったので」
ふと顔を曇らせた彼女だったが、すぐに元に戻る。
「あ、そろそろ」
彼女がそう言って壁掛け時計に目をやる。お喋りに夢中で気にかけていなかったが、彼女が訪れてから相当な時間が経っていた。
「ごめんね、ついお喋りしちゃったね」
彼女を見送りに玄関まで連れ立つ。
「今日は本当にありがとうございました」
靴を履き替えた大倉さんはお辞儀をする。
「こちらこそ、また実習で」
そんなやり取りもそこそこに、彼女は施設を出て行った。

しばらくすればまた彼女と会える。分かっているのに、なぜか急に寂しくなる。もう少し彼女と一緒にいたいと思ってしまった。こんなに年下の学生にそんな気持ちを抱いてしまった自分に、それではいけないと言い聞かす。しっかりしろ自分、と頬を叩くと、腕の傷跡がじんわりと疼いた。
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