今度会ったら何をしようか
私から見たあなた

事前打ち合わせを終え、私はアパートに戻る。なんだかふわふわとした気持ち。穂波さんの笑顔を思い出すと、顔が熱くなって、胸が苦しくなる。一なんだか楽しいよね一耳元に残る穂波さんの声が忘れられず、私は何度も思い出してしまう。シワになる前に着替えなくちゃ...そう思いながらも、私はしばらく動けずにいた。しばらく夢のような感覚に身を任せた後、重い腰をあげてスーツを脱ぐ。
「大丈夫かな」
穂波さんの腕の傷を思い出し、呟く。あれは猫なんかに引っ掻かれた傷なんかじゃない。もっと切れ味があってそれなりの力で切られたものだ。まさか、自分で...と頭をよぎるがそれにしては外側にできた長い傷跡だったなと、そうではないと気付く。もやもやとした疑問を抱えた時、携帯が鳴った。表示されている「父」の名前に私は憂鬱を抱える。
「もしもし」
一向に鳴り止まないその電話に観念して着信に出る。
「なんで早く出ないんだ」
私の声を遮るように怒声を浴びせられる。
「俺が電話したらすぐに出ろ。何をしていたんだ」
父は呂律が回っていない。昼間から呑んでいたのが分かる。
「さっきまで、出かけていたの」
「男か。男なんだろ。ふざけるな」
父は大きな声でまくし立てる。
「違うよ。学校の用事だよ」
「嘘つけ。学校の用事になんでお前が行くんだ」
父はこちらの言い分はお構い無しに言葉を続ける。
「誰がお前を育ててやったんだ。お前が生きていられるのは誰のおかげなんだ」
「うん、分かってるよ」
「大学に行ったのも、俺から逃げるためなんだろ。分かってるんだからな」
「違うよ」
私は父をなだめるように答える。
「夏休みはそっちに帰るって話したでしょう。またその時電話するから」
父は途端に黙りこくり
「それならいいんだ」
と少し落ち着く。
「お前が帰ってこない気がして心配だったんだ」
「大丈夫、大丈夫だから」
父はそんな言葉に満足したのか「じゃあ、いい」と言い残し電話を切った。

こういう事は前からだ。母がまだ家にいた頃は優しくて、どちらかといえば気の弱い、だけど真面目な性格だった。私がまだ小学生の時、母は家を出て行った。学校から帰ると、父はなんともいえない寂しげな表情で、窓を眺めていた。母に関する物は何も残されておらず、私はわけがわからず最初の内は泣いて父を困らせた。母は帰ってこないと理解したのはそれから一ヶ月くらい後、友達の親が私を遊園地に連れて行ってくれた時だ。聞き覚えのある声が後ろから聞こえ、振り返るとそこに母がいた。その横に知らない男の人と私よりも小さな子どもを連れている。母はその子に「いい子だね」と言ってにこやかに抱き締め、「今度からは私がママだよ」と言う。私はすぐにでも走り寄って「お母さん」と言いたい衝動に駆られるが、それは駄目な事なんだと咄嗟に思った。
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