今度会ったら何をしようか
「あ、穂波さん。クッキーも残り僅かですよ」
スタッフが嬉しそうに机に並べる。
「でもこういう所で作ったものって嫌がる人も多いじゃないですか。よだれまみれの手で作っているとか、衛生的にどうとかって理由で。こうやって売れているの見ると嬉しくなりますよ」
「それは今までの活動が実を結んだってところかな」
「穂波さん、ここ長いんですよね。昔は売れなかったんですか」
「僕はもう十年以上になるかな。通りかかった人に突然、お前らみたいな奴が作ったものなんか食えるか、って怒鳴られたりもしたっけ」
はははと僕が笑うと、スタッフは怪訝そうな顔を見せた。
「まぁ、今となっては笑える話なんだけど」
「全然、笑えないですよ」
「ただ当時は利用者も、もちろん僕も相当落ち込んでね。当時の園長も出張はやめにしようとか言い出して。でも、僕はそれが嫌でね。いつか必ず認められると思って、ホームページ作って宣伝したり、当時は他の施設との繋がりも無かったから、お祭りがあるって知ったら電話してお邪魔してもいいですかってお願いしたりね」
「凄いです。じゃあ、ここまでやってこれたのも穂波さんがいたからなんだ」
納得したように頷くスタッフに僕は首を横に振る。
「それは違うよ。確かに僕もそれなりに力を注いだけど、利用者が諦めずに外に出て行こうって気持ちがあったからかな。それを応援してくれた彼らの親御さんもね」
「そういうものですかね。穂波さんが初めから諦めなかったことの方が大きいと思うんですけど」
「君もいつか分かる時がくるよ。結局は利用者が頑張って、それを見た人が理解してくれるって。僕達スタッフはそれが順調にいくように、ちょっとの力を貸すことしか出来ないんだよ」
僕がそう言うと、務めて二年になる彼女は「そういうものですかね」と呟いた。
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