今度会ったら何をしようか

一日の日誌を書き終えて、車に乗り込んだのは日も暮れた十八時過ぎだった。今日は出張販売の収入を出納帳に書き込んだりしていたので定時を過ぎてしまった。携帯を確認すると、優子からの着信が七回。慌ててかけ直すと、コール一回で聞き慣れた声の主が出る。
「どこにいるの」
優子はこの世の終わりかと思えるほどの鬼気迫る声だった。
「今、職場を出るよ」
僕は出来るだけ冷静に、そして努めて優しい声で語りかける。
「なんでこんなに遅いのよ」
-こんなに-という言葉に少し心がざわつくが
「一時間だけ残業してたんだ。大丈夫、まっすぐ帰るから心配しないで」
そう言うと、
「それならいいの。私はこれから夕ご飯なの。本当は斗真の分も作ってあったんだけど、いくらかけても電話出ないから捨てちゃった」
電話口の向こうで優子がイライラしているのを感じる。そもそも、今日は会う約束をしていないじゃないか、なんて僕は言えずに
「そっか。ごめんね」
ただ謝ることしか出来ない。優子と付き合ってもうすぐ二年になる。いつも優子の背中には大きな不安が付き纏い、それは時に怒りに変わったり、焦燥感にかられてしまう。悲壮感によってうしひがれる事も多い。とても壊れやすくデリケートな人なのだ。僕は時々、そんな彼女を見ているとやり場のない感情に辟易してしまう。まるで自分の恋人が言葉の通じない赤ん坊のように思ってしまうからだ。
優子はその後、捲し立てるように暴言を吐き続けた。ひたすらに言葉を並べた後は、負の感情が押し寄せたように「死にたい」「消えたい」と言い続け、最後に小さな声で「ごめんなさい」と呟き、僕はタイミングを見測るまでそれをただ黙って聞いていた。
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