キミに嘘を吐く日
「宇野くんって、こういう所によく来る人?」

「よく使うよ。家も近いし、静かだし、エアコンもきいてるから」


つまり、出没頻度が多いということか……。

これはしまったな、と思った。

図書館なんて、学生なら誰でも利用する場所を選んでおいてなんだけど、1人になりたくて来る場所に、声をかけて来るような知り合いがいるのは困る。

たとえ見知った顔でも、声さえかけて来なければ、私の存在を無視してくれるなら、それはいないと同じで気にならないのに。

彼は私だと知って近づいてきた。

明日からは、ここには来れないな。

小さく吐いた溜息は、思いの外相手にしっかりと届いてしまったようだ。


「迷惑そうな顔するなぁ。御門さんって、正直な人だな」


あからさまな態度を取ってしまった事は、少し後悔した。


「ごめん」


謝った事で肯定したことになったから、宇野くんが一瞬驚いてから「ハハッ」と笑った。


「そこは、否定しろよ」

「あ、えと……ごめん」

「別に、いいけど。邪魔したのは事実だし」


たいして気を悪くした様子もなく、宇野くんは私が持ってきて置いておいた本を一つ一つ見ている。

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