キミに嘘を吐く日
一昨日話をした砂浜におり、海に向かって歩き出した宇野くんの後を追う。

キュッキュッと砂を踏む音が足の下から響くのがちょっと面白くてわざとゆっくり歩いた。

そして時々前を歩く宇野くんの背中を、そっと見つめた。

こんな風に2人きりでいることを西条さんが知ったら、きっと嫌な気分になるだろうなとは思う。

けれど、もう二度と会えないかもしれないと思ったら、罪悪感よりも寂しさの方が勝ってしまった。

心の中で西条さんに謝りながら、私は彼といられる最後の時間を、過ごしている。

高校になって初めて好きになった人。

今でも、多分これからもずっと好きな人。

私に新しく好きな人ができるか想像もできないけれど、それでもきっと宇野くんのことはずっと大切な思い出として胸に残る。

宇野くんの胸にも、ほんの少しでいいから、ほんの一雫でいいから残らないかな?

これから経験するすべての出来事に上書きされちゃってもいいから、それでもいつか昔を思い出す時、私という存在がいたことを思い出してくれたら……。


「いろは、」


前を歩いていた宇野くんが足を止めて振り返った。

ほんの少し緊張しているのか、表情が固い。

どうしたのかな?

なにかあったのかな?

お別れを前にして、宇野くんになにかあったのなら、私はどうしたらいい?

離れていく私にできることなんて、何もない。

宇野くんにはいつも笑顔でいてほしいよ。



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