キミに嘘を吐く日
「じゃあ、また」


みんなが車に乗って、あとは私だけになった時、宇野くんが名残惜しげにそう言った。


「RIN Eするね」

スマホを取り出して軽く振って見せた。

すると、宇野くんもスマホを取り出す。


「あ……ストラップ」

「 これだけは、外せなくて。だからスマホ持ってこれなかった」


そう、なんだ。


「良かった」

「俺も、いろはがストラップつけたままでいてくれた時、すっげー嬉しかった」

「うん。私も今すごく嬉しい」


お揃いのストラップが私達の間で揺れている。

今まではこのストラップに縋るような気持ちだったけど、今は違う。

大好きな人とのお揃いの品。

私の大切なお守りだ。


「また、会いにくるね」

「俺も」


みんなが待っているし、時間がないのも分かっているのに、離れ難い。

でも、また会えるんだと思えば、今はそんなに寂しくない。


「お別れのキスする間位、向こう向いておいてやろうか?」


すぐ後ろで川原くんが揶揄うように言って、西条さんに叩かれてる。


「あほう、できるかっ!」


宇野くんは宇野くんで真っ赤になって川原くんに怒鳴ってる。

私だって、見られていないとしてもキスなんて出来るわけないよ。恥ずかしすぎて。


「じゃ、じゃあ、車に乗るね」


宇野くんに手を振って車に向かって歩き出す。

次に会えるのは夏休みかな?なんて次へ繋げられる約束が出来ることが嬉しい。


「いろは」


呼び止められて、振り向けば耳元に迄迫った宇野くんの口から紡がれた言葉に、私は言葉もなく彼を見た。

顔が発熱しそうなほどに熱い。


「じゃあな、いろは」


宇野くんが背中を押してくれて車に乗りこむ。

一番後ろに座って、車の外に視線を向けた。

車のすぐ外で手を振ってくれる宇野くんたちに手を振り返す。


「いろは、顔真っ赤。宇野のやつになんか変なことでも言われた?」


市原さんの言葉に頭の中をグルグルと回ってる宇野くんの言葉が更に大きくなった。


「へ、変なことなんて言われてないよ」

「う、うん。分かった。からかってごめんね、いろは」

もうこれ以上ないってくらい真っ赤な顔で言ってしまっているせいで、市原さんにすっかり誤解されてしまったようだ。

でも、変なことではないのか、どうか。

だって、あんなこと言われたら、恋愛経験ゼロの私はどうかわせたと言うのか……。

宇野くんにあとでRI N Eで文句言いたい。

恥ずかしい。

でもそれが宇野くんと私が恋人同士になれたことから来るものなら、それは恥ずかしくたって嬉しいことなんだとも伝えておこう。

窓の外、小さくなって行く大好きな彼氏に手を振りながら、私は宇野くんがくれた恥ずかしくて嬉しい言葉を頭の中で繰り返し聞いていた。







「いろは、夏休みは2人きりで会おうな?
その時は絶対キスするから、覚悟しておいて」





完結







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