キミに嘘を吐く日
「あの、」
近くにいた若い女性の職員に声をかけた。
読みたかった本が貸出中なら、予約をしておこうと思ったのだ。
探していた本の名前を数冊挙げると、彼女は「あぁ、もしかして」と思い出した様子で声を上げた。
そして徐にクスクスと笑い始めた。
なんだろう。ちょっと感じ悪いなって思った。
そんな私の気持ちに気付いたのか、彼女は「ごめんなさいね」と頭を下げてから、私を2階へと誘導した。
「頼まれていたの」
「え?」
歩きながら彼女が口を開く。図書室の中、声を少し落として。
「ほら、あそこに座っている男の子に」
指差した先にいたのは、数冊積み重ねた本を枕に寝ている宇野くん。
こちらには気付いていない。
私は足を止めて先を行く彼女の腕を引いた。
「あのっ、どうして……」
「あ、もしかして会いたくなかった?」
会いたいか会いたくないかと聞かれたら、別に会いたくなんかなかった。
「……3-4日位前からあなたが話していた本を必ずキープしてあの席に座る男の子のことが、職員の中でちょっと話に出てて。うちの職員が声をかけたの。だって手にした本を読むでもなく枕にして寝てるだけなんだもの」
確かに本も読まずに図書館に来て寝ている姿は目立つだろう。