キミに嘘を吐く日
仕方なく寝入ってしまった彼の前の席に座り、本を読み始めることにした。

最初は彼の寝息が気にはなったものの、周囲は静かだし、目の前にあるのは読みたかった本。

あっという間に本の世界へとのめり込んでいき、気付くといつのまにか目を覚ましていた宇野くんも、私の為に置いておいてくれた本を手にとって読んでいた。


「いつ、目が覚めたの?」


最初に約束した通り、私の方は見ずにいた彼だけど、起きていたなら声をかけてくれればいいのに。

まぁ、のめり込んでいた私も私だけど。


「つい、さっき」

「ふうん……」


それ以上何を話すでもなく、私達はそれぞれがそれぞれの本を読んでいた。

ふと、彼が読んでいた本が気になって視線をあげる。

あ。

声を出しかけて、慌てて視線を自分の手元へ落とした。

まさか、泣いているとは思わなかった。

目の前の彼に動きはない。もしかしたら自分も泣いていることに気づいていないのかもしれない。

私が見たのは、ぽとりと頬を伝って彼の手に落ちた一雫だけ。

寝顔にしても、泣いたところにしても、今日私は多分彼の無防備な部分に触れてばかりいて、なんだかすごく居た堪れない。

彼が読んでいた本の題名を見て、それが切ない恋物語だったことを思い出す。

確か、幼馴染の男女の恋の話。男の子の1人が幼馴染の女の子を庇って怪我をしたことから、彼女は自分の想いを隠して怪我をした男の子と付き合うことになる……そんな話だったはず。


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