キミに嘘を吐く日
いつもと変わらない態度で。それを頭の中で繰り返しながら、教室に足を踏み入れた。

自分の席に座り、ゆっくり顔を上げて周りを見る。

久しぶりに会うクラスメイト達を見ても、なんの感慨もなかった。

みんながみんなぼやけて見えてしまう。

でも、たった1人だけは違う気がする。それが今日、この教室で彼を見てはっきりと分かる気がした。


「いない……」


落胆がそのまま溜息と共に溢れた。

昨日、終業式の話をした時は休むなんて言ってなかった。

急に体調を崩したんだろうか?

気にはなるけれど、誰に聞いたら彼のことが分かるのか分からない。

つまんない。

寂しい、な。

そんな風に考えて、そんなふうに思った自分に驚いた。


「御門さん」


躊躇いを含んだ声に呼ばれて、その声の持ち主を見つけた。

情けないな。この人の名前も覚えてない。

でも、多分田中、とか、高田とか、そういう名前だった気がする。


「あの?」


呼ばれたきり何も言わずにいた男子は、ハッと我に返った様子で頭を小さく左右に振った。


「宇野、今日は休みだから。アイツにあんたに言うように頼まれてたから……だから」

「わ、わざわざありがとう。宇野くんどうかしたのかな?」

「色々忙しいんじゃね?アイツんち今は……」

「高田!」


話の途中で高田と呼ばれて振り返った彼に、話の続きをちゃんと聞きたかったけれど、彼はそのまま「じゃあ」とだけ言って呼ばれた方へ行ってしまった。

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