キミに嘘を吐く日
「いろは、明日は暇?」
返却された図書を本棚にしまっていると、宇野くんが小声で話しかけてきた。
明日は図書ボランティアはない日で、いつもなら図書館で2人、本を読んだり、勉強をしているところだけど。
「暇だけど……」
「たまには、図書館の外で会わないか?」
「え?」
突然の誘いに驚いてすぐには答えることができなかった。
「館長からご褒美もらったんだよ」
ポケットから出てきたチケットをヒラヒラとさせる宇野くんの手元を見た。
ほら、と渡されたそのチケットは、ブルーのグラデーションの中にイルカがプリントされたもので、見知った水族館の名前が書かれてある。
「明日、行こうよ。水族館」
「ふ、2人で?」
「チケット、2人分しかないから、2人で行くしかないんじゃないか?」
「……」
「俺とじゃ嫌、か?」
途端に沈んだ宇野くんの表情に慌てて首を横に振った。
その台詞は私が言いたいよ。
宇野くんは、どうして私を誘ってくれるの?
ずっと一緒にいてくれるのは、図書館の中でだけ。
それは、同じボランティアをする仲間としてだと思う。
でも、図書館を出てまで私と一緒にいてくれる理由が分からない。
「う、宇野くんは、私とでいいの?」
「何言ってるんだよ。いろはと水族館に行きたいから、誘ってるんだけど?」
いつもと変わらない、いつものテンションの宇野くん。
素直に喜びたい。
だけど同じくらい戸惑いも湧く。
宇野くんの気持ちが知りたいと思うのと同時に、自分自身の気持ちもよく分からなくて。
結局昨日のことだって聞けてない。
お家のことだとは、高田くんから聞いていたけど、それなら尚更そんなに親しくもない自分が立ち入ってもいいのか迷っていたら聞けなくなったのだ。
でも、そのことすら吹っ飛ぶくらいの驚き。
これって、デートみたいだ。