キミに嘘を吐く日
「よかったよ。また頼むね」


館長や茶原さん達が褒めてくれて、読み聞かせに来ていた子供達が寄って来て「楽しかった!また読んでね」とキラキラした目で言ってくれるから、本の読み聞かせが終わって放心状態だった私も、ジワジワとその感動がこみ上げて来た。


誰かに喜んでもらえるって、こんなにも嬉しくて感動することなんだね。

宇野くん、今日の事真っ先に宇野くんに知らせたいよ。


「ちゃんと笑顔で話せるんだな」


読み聞かせに使った絵本を抱きしめて、絵本のコーナーで立ち尽くしていた私は誰かの声で我に返った。


振り返って、目の前に立つ高田くんを見つけた時、息が止まるかと思った。

短く切り揃えられたショートモヒカンに、黒とグレーの2色が混ざったラフなシャツにジーンズ姿。

私服で見る彼は、制服姿とはまた違っていた。

市川さんが見たら、きっとカッコいいって喜ぶだろうなって思った。

でも、ずっと避けられていた相手から、こんな風に声をかけられるなんて、驚きしかない。


「高田くん」

「市原がキレてうるさいから、アンタと話してやることに決めたんだ」

「市原さんが?」


キレて、のところに引っかかったけれど、市原さんきっと無理して高田くんにキツイ言い方したのかな?

私の為に動いてくれるクラスメイト……ううん、友達がいるって、なんて幸せなことなんだろう?


「本当は、宇野のことを傷つけた人間と話たくはないってのが本音だから。ムカついたら話の途中でも帰るからな」


私に対しては、厳しい高田くんだけど、それは宇野くんのことを思っているからだ。

それなら、私は宇野くんへの想いをちゃんと話して誤解を解かなきゃ。

< 58 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop