キミに嘘を吐く日
私の知らないところでの、宇野くんと高田くんとのやりとりを聞いていた私は、今よりもっとずっと宇野くんを愛おしいと思った。

彼が歩み寄ってくれなかったら、きっと今の私はいない。

宇野くんに会いたい。


「宇野くん、どこに引っ越したの?」

「教えられない」


高田くんは、私の問いかけをキッパリと跳ね除けた。


「どう、して?」

「どうしてはこっちの台詞。アンタなんで宇野のこと振ったんだよ。アイツ真剣だったよ。アンタの事……」


言葉にする事で再び私への苛立ちが募ってきたみたいだった。


「違う。私は振ってないよ。告白したのは、私が先だもん」


あの日、あの水族館の側の展望台で私が宇野くんに告白した。

そして、宇野くんもそれに答えてくれた。


「じゃあなんでアイツ、アンタに振られたなんて嘘を……」

「離れることが分かっていたからじゃないかな……」


すぐ側で声が聞こえて、驚いて高田くんと私はその声の持ち主を見上げた。


「茶原さん?」

「ごめん、そこで図書の返却してて、ちょっと話が聞こえちゃって……」


茶原さんが高田くんと私に向かってごめんねともう一度頭を下げた。


「さっき言ってたのって、どういう意味ですか?」


立ち聞きされたことには怒っているみたいで、だけど年上に対する礼儀を心得ているのだろう高田くんが少し不機嫌そうに茶原さんに向けて言った。


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