キミに嘘を吐く日
まずは席の確保をしようと思って、ぶらりと館内を歩き回った。

二階へ上がり、明るい場所を目指すと下の方が磨りガラスになった窓の側に机が何列かに並ぶ席があった。

夏場ならスクリーンカーテンが引かれるであろうこの窓も、今日は開かれたままで、座るとそこから図書館の前の芝生広場が見下ろせた。

今日は風も強いせいで、春とはいってもまだまだ空気は冷たい。

この広い芝生広場を利用するには少し時期が早いようだ。

それでも小さな子供達が走り回る姿や、固まって話をしているのだろう若い女性たちの姿が見えた。

私は1人が好きだけれど、人が嫌いなわけではない。

こんな風にぼんやりと人の様子を見るのは、割と好きだったりもする。

早速席を決めて、着ていた上着を椅子の背にかけて置いた。

ポツリポツリと穴抜けのように席は埋まっている。

見渡す限りでは知り合いの顔は見えなくてホッとした。

近くの本棚から数冊見繕って机に重ねた。

その中の一冊を手に取って、パラパラとページを捲る。

本を指で擦ると乾いた音がして、一度ふやけた紙が乾いた後みたいな……そんな指ざわりがした。

私はどっちかっていうとフィクションの世界の方が好きだ。

ファンタジーのような仮想世界程現実から離れていなくていい。

日常からほんの少し脱線した瞬間に起こる、主人公にとっては特別な何か。

それを読むのが好きなのだ。

主人公の年が自分に近ければ近い程、共感しやすいと思う。

けれど、ノンフィクションだと、そこには逃げられない現実があって、あからさまで、晒されている感覚が強くて、怖くなる。

そんな風に思ってしまって苦手。


< 7 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop