キミに嘘を吐く日
一人でホテルに帰ってきた私は誰もいない部屋で、ぼんやりと窓の外を見ていた。

でも、目の前に広がる海や白い砂浜を見ていた訳じゃなかった。

今、頭に浮かぶのは、目の前に見えている幻影は、宇野くんと彼の隣に立つ綺麗な女の子。

二人の関係は分からなかったけれど、親密そうな様子を見れば、もしかしたらと思わざるを得ない。

宇野くんの彼女。

もしそうだったら……。

ここまで来た私はなんて滑稽なんだろう。

どうして宇野くんも同じ気持ちでいてくれると思い上がっていたのだろう。

進級して、新しい生活を始めて、私の周りだって随分変わった。私自身クラスメイト達と仲良く楽しく過ごしている。

宇野くんだって宇野くんの新しい生活を楽しんでいるに違いないのに、新しい出会いや想いが生まれていたっておかしくないのに。

どうして彼の気持ちが変わっていないだなんてそんなこと思えたんだろう?


「いろはちゃん?」


不意にかけられた声に、無意識に振り返って、途端驚いた表情の茶原さんを見て我に返った。

ハッとして、慌てて目元を袖口で擦った。

泣き顔を晒してしまったことで、激しく後悔した。


「どうしたの?宇野くんに会いに行ってたんじゃなかったの?」


案の定茶原さんに気を遣わせてしまった。


「な、なんでもないんです。ちょっと疲れて……皆より先に戻っただけです。あ、私も温泉に入ってこようかな」


茶原さんから逃げるように温泉に入る準備をして部屋を出た。

部屋では泣けない。みんなに心配をかけてしまう。

皆私の為に貴重なゴールデンウィークを付き合ってくれたのに。

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