キミに嘘を吐く日
浴室も人が多くて、ゆっくり入る気分にはなれなかった。

早々に上がって、それでもすぐに部屋に戻る気にもならなくて、ホテルの外に出た。

すっかり日も落ちて、辺りは暗くなっていた。

ホテルの裏手に回ると砂浜に降りられる道があって、私はそこを進んだ。

砂浜にも人がいて、だけどホテルの中ほどじゃない。

家族連れと言うよりは、恋人同士なのか二人連れの男女が砂浜に座っていたり、仲睦まじく寄り添っていたりと様々だ。

彼らの後ろを通って歩き、辺りに誰もいない岩壁の辺りで足を止めた。

その場に座り込んで海を眺める。

ぼんやりと眺めていると、再び昼間の2人の姿が脳裏に浮かんできた。

何故か涙まで浮かんできた。

ここには誰もいないから泣いたって困らせる事はないだろう。

2人の関係を聞かないうちに、悶々と悩んでこうして泣いているなんて、情けない事だけど思うけど、どうしても特別な関係に見えてしまって寂しくなる。

宇野くんは両親の離婚で高校の途中で転校させられて、おじいさん達と一緒にいるとはいえ、1人には変わりない。

仲の良かった友達と離れ、慣れ親しんだ街を離れ、新しい場所で一から関係を作っていかなければならない。

寂しかったと思う。

高田くんの言う通り、宇野くんは1人で……。

それを考えたら、あんな風に彼に寄り添う存在がいたことは、良かったと思うべきなのかもしれない。

でも……。



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