キミに嘘を吐く日
「……いろは?」


呼ばれた瞬間、息をのんだ。

だって、そんな……嘘でしょう?

弾けるように顔を上げて、私を見下ろす彼と目が合った。


「う、宇野く……ん」


何故だろう、うまく喋ることができない。

喉の奥がカラカラに乾いていて、舌がうまく回らなかった。

今しがた泣いていて、顔だってみっともないくらいにボロボロなのに。

そんな顔、久しぶりに会う宇野くんに見られたくなかったのに。


「久しぶり」


あの頃と同じ、優しい笑顔があった。


「ひ、久し……ぶり」

「司達と一緒に来てたの?」

「う、うん……」

「道の駅で、いろはを見かけた気がして……」

「……」


スッと伸びてきた手が頬に触れた。指先で目元を撫でられて、ピクッと体が震えた。


「相変わらず、泣き虫なの?」


宇野くんの言葉に自分が泣き顔を晒していた事を思い出した。

慌てて彼から離れてタオルで顔を擦るように拭いた。


「う、宇野くんどうしてここに?」

「久しぶりに会う友達に挨拶くらいしようと思って」


久しぶりに会う、友達?

友達だと言われてなんだか胸の端っこが、ヒリヒリする。


「いろはも道の駅に来てたなら、高田達と一緒に声をかけてくれたら良かったのに」

「だって……っ、」


声なんてかけられるわけない。

宇野くんに会いたくて、想いをちゃんと伝えたくて、ここまで来た。

でも、あんな風に綺麗な女の子と一緒に現れたら、声なんてかけられるわけがない。




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