キミに嘘を吐く日
「そしたら……俺の彼女を紹介したのに」


変わらない優しい笑顔のまま、宇野くんはそう言った。


「か、彼女?」

「そう。俺の彼女」


笑顔は何度も見て来た宇野くんの笑顔なのに、ずっと聞きたいと思っていた声なのに、どうしてだろう?この人は本当に私が知っている宇野くんなんだろうか?そんな風に思った。


「そっか、良かったね。か、彼女がいたら、寂しくないね」

「……そうだな。寂しくないな」


宇野くんの顔をまっすぐに見ていることができなくて、視線を逸らして言葉だけを必死で紡いだ。

宇野くんは、新しい生活の中ですでに前に進んでいるんだ。

もう、私に言った言葉は過去のことなんだ。

ううん、そもそもあの日あったことは全部嘘だったって、エイプリルフールの悪戯だって聞いていたじゃないか。

宇野くんは、最初から私なんて好きじゃなかった。

私は彼の悪戯に振り回されただけ。


「帰るのは明後日なんだろ?」

「え?あ、そう……だけど」


だけど今すぐ帰りたい。私がここにいる理由はもうないんだもの。


「高田達にも話したけど、明日皆で一緒に水族館にいかないか?」

「水族館……?」

「近くにあるんだよ。少し前にペンギン館ができて結構賑わってる。彼女がさ一度一緒にいきたいって言うんだ。次いでだし、高田達も誘った。だから、いろはも行こう」


宇野くんは一体どういうつもりで私を誘うんだろう?本心を言えば水族館なんか行きたくない。

宇野くんと最初で最後にデートしたのと同じ水族館で、今度は宇野くんが彼女と一緒に過ごすのを近くで見ろって言うの?


「私は止めておくよ」

「なんで?いいじゃん一緒に行こう」


以前もこうして強引に誘われたけれど、それは決してこんな風に嫌な気分にはならなかった。

宇野くんは意地悪だ。どうしてこんな風に私が傷つくかもしれないことを平気で言えるんだろう?


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