キミに嘘を吐く日
「俺のこと、分かる?御門 いろは(みかど いろは)さん」


相手にフルネームで呼ばれて、ようやく相手の名前を思い出した。


「宇野 (うの )……くん」


目の前の彼の名前を口にしたことで、ハッキリと教室にいた宇野くんの姿を思い出すことができた。

出席番号は前の方。

背の順で並ぶと後ろの方にいる彼とは、接点がなかった。

私は出席番号では後ろの方だし、標準より背は低いから、背の順では前の方だ。

視界に入っていた人と、その外にいた人とでは、私の中の認識はかなり差があるらしい。


「よかった。クラスメイトから忘れられてる俺って、どんだけ存在感薄いのかって不安になった」


へらっ、と笑った宇野くんの顔は少し幼く見えた。

彼の顔をこんなに近くで見るのは、もしかしたら初めてかもしれない。


「……存在感の話をしたら、私の方が薄いでしょう」

「そうか?……いや、そんなことないと思うけど」


首を傾げて少し考える様子を見せた後、彼はそう言って否定した。

お世辞とか、社交辞令とか、そういう気遣いができる人だったんだって、ちょっと意外。

宇野くんという男子生徒のことを思い出そうと必死で考えて、思い出したことが一つ。

彼は口数が少ない人だということ。

いつも誰かと一緒にいるけれど、決して目立つ人ではない。

だけど授業でも、クラス活動でも、自分の意見はちゃんと言える人だ。

自分を持っている人。


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