キミに嘘を吐く日
「……」


黙ったままの宇野くんが何を考えているか分からなかった。

だけど、私の手に戻ってきたスマホにはまだストラップはついたままだ。

自分で断ち切れってことなのかな。

そうは思っても今すぐ外すことも出来なくて、私はバッグにスマホをしまった。


「じゃあ、行くよ」

「ん……」


ようやく西条さん達の元へ戻る気になったのだと、彼のあとをついて歩き出した。


「う、宇野くん?ペンギン館はそっちじゃないよ?」


壁についた案内を指差して宇野くんを呼んだ。


「いろは、知ってた?ここのスナメリもバブルリングできるんだぜ」

「宇野、くん?」


戸惑う私の手を、強引に引いてスナメリの水槽へ向かう宇野くん。


「宇野くん、西条さん達が待ってるから……」

「いろはのスマホから送っといた。待ち合わせ迄別行動しようって」

「え、そんな!どうして?」


どうしてそんなことするの?彼女を放って他の人と二人きりなんて、私が西条さんの立場だったら傷つくよ。

さっき、私を花粉が舞う屋外から中へと連れてきてくれたときとは違う。

こんなの、彼女に対する裏切りだよ。


「私は、戻るよ。西条さん達がいるところに」


宇野くんの手を逆に引いて、彼の足を止めた。

ゆっくり振り返った彼の目が悲しそうに揺れている。

どうして?

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