フラジール
<1.春雷の煌き>
純情少女と淡夢
あの頃、ふわりと落ちた朧(おぼろ)げな世界で、夢を見た。
――やけに現実的(リアル)な夢だった。
1つ目は、どこかの港近くの大きなショッピングセンターで、誰かと一緒にインテリアグッズを選んでいる日常の場面。
2つ目は、何故か自分が煌(きら)びやかなパーティドレスを着ていて、男の人と2人でプリクラを撮っている瞬間。シャッター音の合間に、その誰かとそっとキスをした。
その人の顔は覚えていない。顔だけがぼんやりと陰(かげ)っていて、鮮明に思い出すことができない。
けれど、その雰囲気だけは今も覚えている。少しだらしない感じが漂う人だった。
その頃の私には、まだ恋人がいなかった。
まどろみから覚めた私は、顔を真っ赤にして首をブンブンと振った。
「い、今、私、夢の中で、…キ、キ――!」
超純情少女にとって、見ることさえあり得ないような夢だった。だがしかし、その感触だけは事実のように柔らかく、彼女の心を惑わせた。