私、悪女になります
「…だ、騙す…?私が??」


友梨さんの言葉に驚いたのは私だけではないらしい。
今まで黙って聞いていた祐介もポカンとした顔をしている。


「む、無理です…。私にそんなのできるわけ…」

「あら?どうして無理だと思うの?」

「だ、だってそもそも…こんな私に騙されてくれる人なんているわけ…」

「確かに、今の香澄じゃ難しいかもね」


ほら、やっぱり。
友梨さんの言葉に、思わず俯くと、「でも、」と更に続けられた声にそっと顔を上げる。


「あんたは、磨けば絶対光る」

「み、がく…?」

「そう。自分を磨いて、女の武器を手に入れる。そうすれば、男どもを見返すことだってできるわ」


愉しそうに笑みを浮かべながら話す友梨さん。
私が、見返す。私を振った男どもを。
確かに悔しかった。お姉ちゃんと比べられたり、お姉ちゃん目当てで近づかれる度に、相手の男たちをぶん殴ってやりたくなった。
でも、私にはそんな勇気がなかった。

でも、もし本当に、見返してやることができるのだとしたら。


「おいおい、ちょっと待てよ香澄」

「っ!ゆ、祐介…」

「お前、橘先輩が言ってること、まさか本気にしてるつもりか?もし本当に、お前が“騙す側”になるなら、それは今までお前を振ってきた奴らと同じになるってことなんだぞ?」


怪訝そうに眉根を寄せる祐介の言葉に、ぐっと下唇を噛む。
その通りだ。
そんなことをしたら、私が嫌いな人達と同じになってしまう。
ぎゅっと手のひらを握りしめて俯いていると、小さく笑った友梨さんが、ゆっくりと席を立った。


「もちろん無理に、とは言わないわ。祐介くんが言うのも一理あるもの」


長い足でカフェの出口へ1歩踏み出した先輩。
そのまま歩き去るのかと思いきや、「でも、」と続けて振り返った先輩は、皮肉そうに言った。


「“騙される側”でいたら、いつまでたっても、“騙す側”には勝てないわよ」

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