私、悪女になります
騙される側のままじゃ、いつまでたっても、騙す側には勝てない。
何故だろう。
数日前、友梨さんの言葉がどうしても頭から離れない。
授業も終わり、教授が教室から出ていくのを見計らってため息をつくと、前の席に座っていた友達、美咲が「どうしたの?」と不機嫌そうに首をかしげた。
「あ、ううん。ちょっとね」
「大丈夫?なんかあるなら相談しなよ?」
「ありがとう。でも、ホントに大丈夫。昨日のバイトの疲れが出ただけだから」
苦笑いを浮かべて誤魔化すと、少し怪しまれながらも「程々にね」と心配してくれる美咲。
高校からの付き合いである彼女には、お姉ちゃんへのコンプレックスの事もすべて話している。
私がお姉ちゃんの事を正直に話せるのは、美咲と祐介にだけだ。
「でも良かった。香澄が案外元気そうで」
「え?」
「…だって、ほら。祐介くんのこともあるし…」
「…祐介の、こと?」
突然出てきた名前に眉を下げると、美咲の目が大きく見開いた。
「まさか知らないの??」と尋ねてきた美咲に、首を縦に降ると、しまったという顔をした美咲がわざとらしく目をそらした。
「ねえ美咲、祐介がどうかしたの??」
「…いや、あの、えっと……ホントに、知らないの?」
「?だから何を?」
「…祐介くんが、由香里さんと、付き合ってるって噂…」
ガツン。と、頭を何かで殴られたような衝撃だった。
目を見開き固まっていると、「ホントに知らなかったんだ」と美咲が気まずそうに視線を落とす。
祐介が、お姉ちゃんと??
嘘。だって、祐介だけは違った。
祐介だけは、お姉ちゃんじゃなくて私の味方をしてくれた男のだった。
それなのに。
呆然としたまま動けずにいると、近くに座っていた同じ学科の女子が追い打ちを掛けるように話しかけてきた。
「あ!それ私も聞いた!菊池くんがすっっっごい美人と2人でホテル街を歩いてたって」
「その人ってここのOGなんでしょ?菊池くんもやるねー」
世間話の一環として交わされる会話に、上手く言葉を発する事ができない。
そうなんだね。私、知らなかった。
そう言って笑えればどんなにらくだっただろうか。
唯一私の胸中を察してくれた美咲が心配そうに見つめてきたが、そんな視線からさえも逃げたくなって、気がつくと教室から飛び出していた。
祐介だけは、違うと信じていた。
信じていたのに。
目の奥から溢れてきたものを乱暴に袖口で拭った時。
「…大丈夫?」
現れたのは友梨さんだった。
「…友梨さん、私、なります。私は…私も、“騙す側”に、なります…!」
そう言った私に、友梨さんは笑って手を差し出した。
何故だろう。
数日前、友梨さんの言葉がどうしても頭から離れない。
授業も終わり、教授が教室から出ていくのを見計らってため息をつくと、前の席に座っていた友達、美咲が「どうしたの?」と不機嫌そうに首をかしげた。
「あ、ううん。ちょっとね」
「大丈夫?なんかあるなら相談しなよ?」
「ありがとう。でも、ホントに大丈夫。昨日のバイトの疲れが出ただけだから」
苦笑いを浮かべて誤魔化すと、少し怪しまれながらも「程々にね」と心配してくれる美咲。
高校からの付き合いである彼女には、お姉ちゃんへのコンプレックスの事もすべて話している。
私がお姉ちゃんの事を正直に話せるのは、美咲と祐介にだけだ。
「でも良かった。香澄が案外元気そうで」
「え?」
「…だって、ほら。祐介くんのこともあるし…」
「…祐介の、こと?」
突然出てきた名前に眉を下げると、美咲の目が大きく見開いた。
「まさか知らないの??」と尋ねてきた美咲に、首を縦に降ると、しまったという顔をした美咲がわざとらしく目をそらした。
「ねえ美咲、祐介がどうかしたの??」
「…いや、あの、えっと……ホントに、知らないの?」
「?だから何を?」
「…祐介くんが、由香里さんと、付き合ってるって噂…」
ガツン。と、頭を何かで殴られたような衝撃だった。
目を見開き固まっていると、「ホントに知らなかったんだ」と美咲が気まずそうに視線を落とす。
祐介が、お姉ちゃんと??
嘘。だって、祐介だけは違った。
祐介だけは、お姉ちゃんじゃなくて私の味方をしてくれた男のだった。
それなのに。
呆然としたまま動けずにいると、近くに座っていた同じ学科の女子が追い打ちを掛けるように話しかけてきた。
「あ!それ私も聞いた!菊池くんがすっっっごい美人と2人でホテル街を歩いてたって」
「その人ってここのOGなんでしょ?菊池くんもやるねー」
世間話の一環として交わされる会話に、上手く言葉を発する事ができない。
そうなんだね。私、知らなかった。
そう言って笑えればどんなにらくだっただろうか。
唯一私の胸中を察してくれた美咲が心配そうに見つめてきたが、そんな視線からさえも逃げたくなって、気がつくと教室から飛び出していた。
祐介だけは、違うと信じていた。
信じていたのに。
目の奥から溢れてきたものを乱暴に袖口で拭った時。
「…大丈夫?」
現れたのは友梨さんだった。
「…友梨さん、私、なります。私は…私も、“騙す側”に、なります…!」
そう言った私に、友梨さんは笑って手を差し出した。