【短】桜の涙に恋焦がれ
「あー、死にたい」
本気じゃない。でも、この気持ちがいつ本気になってしまうのか。真っ黒な感情に染まりそうで怖かった。
「大丈夫、ですか?」
降り続く雨の中。地面で跳ね返る水の音で、一瞬よくわからなかった。パサリと頭に落とされたタオルで、誰かがいたのだと気づく。
「咲川さん、大丈夫ですか?」
雨に掻き消えそうな声がやっと届いた。
見上げれば、同じ部署にいる柳瀬大樹くんだった。
大学を卒業して彼も今年の新入社員なんだけど、この差の違いときたら……。
「柳瀬くん、仕事は?」
「今、昼なんで」
「だからって、ここから会社まで遠いでしょ。長居してたら間に合わないよ。しかも、こんなどしゃ降りで……」