【短】桜の涙に恋焦がれ
年齢的には年上の彼。入社直後に役職から仕事量からみんな大差がついているのに、同じ日に入社した同じ新人だから敬語はやめて欲しいって彼の希望。
初めて、人間扱いされた気分だったのを覚えてる。
それなのに、わたしには敬語で話す。ちょっと変な奴。
でも、そんなふうに同僚として接してくる彼の前では何でも言いたくなる。無口なのをいいことに、愚痴を聞いてもらっている。
彼は迷惑だと思ってないのかな。
「コンビニで肉まんとバナナとホットコーヒー買いました。食べてください」
「……すごいチョイスね」
「嫌いでしたか?」
「ううん、ありがとう」
ひねくれてる場合じゃない。わたしは素直にそれらが入った袋を受け取った。
柳瀬くんもわたしの隣に並んでコーヒーに口をつける。
「お昼買えなくて困ってたの。ありがとう、柳瀬くん」
「いえ」
うん、やっぱり無口だ。
だから安心するのかな。一緒にいて落ち着くのかな。何よりも悪意が感じられないのが気持ちいい。