【短】桜の涙に恋焦がれ

「無理だよ、柳瀬くん」

「え?」

「社会人なんて、そんなもんだよ」



 諦めている? 会社なんてそんなもんだって決めてしまった?


 わたし、こうやって空を見るのいつ以来?


 桜に惹かれて見上げたけど、ずっと地面ばかり見ていたんだ。
 桜が泣くから、わたしがどんなに酷い状態だったか気づいちゃった。気づきたくなかったな。


 違う。
 わたし、本当は人生を諦めていた。


 流れに逆らわず、どこへ行くかもわからないままに、されるがままの人生。それを当たり前に受け入れようとしていたんだな、わたし。



「あの会社は咲川さんを人間として見ていません」

「……そうかもね」

「俺は、咲川さんが何もしていないのに。その、暴言を吐くのは……」

「短大卒ってやつ?」

「それ、です」



 気遣ってくれているのか、柳瀬くんは短大卒って言葉を避けるように言う。
 その優しさに触れたら、少しだけほっとしてしまった。

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