【短】桜の涙に恋焦がれ
「ありがとう。もう大丈夫だから」
わたしは押しのけるように柳瀬くんから離れる。
立ち上がって、何でもないように笑ってみせた。
「桜を見ていたら弱気になっただけ。だから、大丈夫!」
言った瞬間にまたむなしい気持ちが蘇って、不意に零れた涙に驚いた。見られまいと慌てて後ろを向けば桜の幹。
何をしているんだろう。
太いそれを触りながら思う。
「咲川さん!」
雨に負けない声に、わたしは涙を拭って振り返る。
「柳瀬く――――」
ドンっと幹が音をたてる。
やけに柳瀬くんの顔が近くて、彼の突っ張った腕が気になって、なぜか動けない自分が不思議で。
やっと壁ドンという答えにたどり着く。
いや、これは桜ドン……そんな名称はどうでもいい。