子犬とクマのワルツ
手元に残った菓子に目を落とす。
若い女の子にしては整った文字のメモ。そして、ゾウをかたどった青いメタリックカラーのゼムクリップ。
俺はメモを挟んでいた青いゾウを引き抜いた。
高山が付箋を使わずに一言メモをはさむ時、必ず使われるクリップ。
(…zooクリップのシリーズ)
呆けていると、クスクスと忍び笑う声が目の前の席から届く。
細い目を更に細めて笑う横顔を睨んだ。
「相変わらずですね〜」
1年後輩の尾関(おぜき)が、マウスを操作する手を止めずに、逆の手で口元を隠して笑っていた。チームのエースは、なにかと人をからかうのが好きなのが玉に瑕(きず)だな、とため息を漏らしてコーヒーに口をつけた。
「高山は、主任大好きっ子って呼ばれてるの知ってます?」
人が少ないせいか、いつもより少しくだけた口調と態度で尾関が言った。
口に入ってきたコーヒーを吹き出しそうになりながら、どうにか苦い液体を喉の奥に流し込んだ。