珈琲の中で
タルトタタンと鉛筆
とても綺麗な手だ。
あかぎれさえも愛おしいのはきっと僕が恋に落ちているからだろう。
僕はこれが恋なのか分からないほどの鈍感ではなかった。
そのことに少しホッとする。
僕は恋をあまりした事がなかったけれど、
合った瞬間に心が暴れだしてしまうこの気持ちはこれまでの恋よりもずっとわかりやすかった。
彼女の手を見つめながら鉛筆を走らせる。
またハッとする。
さっきまでいたお客さんはみんな帰ってしまっていた。
「すごい集中力ね。さっき会話してからまた入り込んでたわよ。」
「君の手があまりに綺麗でつい。」
「あら、ありがと。」
彼女はゆっくりと微笑んだ。
「ねぇ、名前を聞いてもいい??」
「私の名前は咲よ。白石咲。あなたは?」
「君にピッタリの名前だね。僕は貴瀬春。」
「あら、素敵。」
「よろしくね、咲さん。」
「よろしくね、春君。」
やっと名前を聞くことができた。