珈琲の中で
浅煎りの酸味
珈琲の香りに包まれて、なんとも言えない気持ちに浸る。
誰にも邪魔されず静かな時間が流れる。
僕は、珈琲を淹れる彼女に目をうつす。
僕はゆっくりスケッチブックを取り出そうとしたけどやめた。
僕の絵を見てみんなこう言う。
凄いね、上手だね、天才だね。
どれも嬉しいけどみんなそう思っちゃいない。影ではあいつの絵は暗いだの、根暗だの言っているのを耳にしたことがある。
嫌気がさす。
だけど、僕の目に移る風景はこうだから仕方がない。
なんとなくやるせなくなってここにたどり着いたわけだ。
ぼーっとしているうちに
「おまたせしました。」
珈琲の香ばしい香りが僕の鼻をかすめる。
「ありがとうございます。」
一口、口に含んでゆっくりと飲み込む。
幸せな気持ちが僕の中で広がった。
「美大に通われてるの?」
僕は顔を上げる。
目があって少しびっくりする。
わりと近い距離にいたからだ。
「、、はい。そうです。」
「ふふっ、やっぱりスケッチブックもってるからそうだと思った。、、描かないの?
さっきからスケッチブックみつめてるけど、、、。」
見られていたようだ。
「長居しては申し訳ないなと思って、こんな時間だし。」
とっさにでた言葉がこれだった。
「別にいいわよ?今日はもうお客様入らなそうだし、ゆっくり描いていけばいいわ。」
彼女はゆっくり微笑んだ。