エリート上司の甘く危険な独占欲
 その日もいつも通り、貿易関連の書類を作成したり、取引メールを送ったりして午前中の仕事を終えた。ランチタイムに麻衣を目の前にすると、やっぱりまだ苦しくてつらくて、どうしても彼女と離れた席に座ってしまった。食事を終えて会社に戻るときも離れて歩いていたのに、オフィスビルのエントランスの手前で、後ろから麻衣にブラウスの袖をそっと引っ張られた。

「華奈さん、訊きたいことがあるんです」

 深刻な表情でそう言われて、華奈はついに来たか、と思った。胃の辺りが急激に冷たくなった。だけど、逃げるわけにはいかない。華奈は麻衣に向き直った。

「なぁに?」
「ちょっと待っててくださいね」

 麻衣は華奈に断わり、一緒に食事に行ったメンバーに「ごめん、先に帰ってて~」と声をかけた。

「わかった」
「一時まであと十三分だよ~」

 そう言い残して梓たちがビルのエントランスに消え、華奈は覚悟を決めて麻衣を見た。

「訊きたいことってなにかな?」
「ここではちょっと……」

 麻衣が言って、辺りをキョロキョロと見た。オフィスビルのエントランスを挟むようにカエデの木が立っていて、木陰に人の姿がないのを確かめ、麻衣は華奈の腕を取る。
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