エリート上司の甘く危険な独占欲
「あっちでお話ししましょう」

 華奈は麻衣に連れられて、カエデの木陰で、芝生になった敷地に足を踏み入れた。木陰は春の明るい日差しが遮られていて、ひんやりとしている。あるいは、これから麻衣に訊かれることを想像して、華奈が背筋を寒くしているだけなのかもしれないが。

「華奈さん」

 麻衣がおもむろに口を開いた。

「はい」

 華奈は思わず姿勢を正した。

「もし違ってたらごめんなさい。あの、颯真くんと付き合ってます?」

 ずばり訊かれて、華奈は下唇をキュッと噛んだ。

「華奈さん?」

 麻衣に下から顔を覗き込まれ、華奈は彼女の目を見ることができず、顔を背ける。

「ごめんね。知らなかったの。でも、だからって許されることじゃないのはわかってる。過去に二回、そういう関係になってしまったけど、でも、それっきりだから。私、一之瀬部長には連絡を取ってないし、付き合う気もないから」

 過去に二回。それが許される数字なのかどうかはわからない。そもそも許されることなどないのかもしれない。華奈は泣きたい気持ちをぐっとこらえて麻衣を見た。だが、その麻衣の表情見て、華奈は息をのんだ。
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