エリート上司の甘く危険な独占欲
 柊一郎の口調に嘲りすら感じられて、華奈は言葉を失った。

 大学生になって本格的にメイクを覚えてから、派手に見られるようになった。外見につられてぐいぐい口説いてくるような男子学生は苦手だった。だから、柊一郎の前に付き合ったことがあるのは、大学時代の同級生一人だけだ。それなのに、まさか柊一郎に『軽い女』と思われていたとは。

(柊一郎さんは……同じ部署の上司だし、ちゃんと私の仕事や中身を見てくれていたと思ってたのに……)

 華奈はうつむき、下唇をギュッと噛んだ。そうしないと声を上げて泣いてしまいそうだった。

 半年前、一緒に残業をして、華奈をねぎらうために柊一郎が食事に連れて行ってくれた。そのとき意気投合して、そのまま一夜を過ごし、二人の関係が始まった。仕事のできる上司に求められて、すごく嬉しかったのに。

 目の端に、柊一郎がバーテンダーに会計を頼む姿が映った。クレジットカードで会計を済ませて、柊一郎がスツールから立ち上がる。

「来週からも会社ではこれまで通りでいよう」

 華奈の耳元で、柊一郎が言った。言葉よりも口調の冷たさに心が凍りつきそうだ。それなのに目にじわじわと熱いものが込み上げてきて、華奈はそれを見られないように顔を背けた。
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