エリート上司の甘く危険な独占欲
「なんなんですか?」

 梓はぶっきらぼうに言った。それが強がっているように見えて、華奈は横から梓の肩を両手で抱いた。

「泣いてもいいんだよ」
「は!?」

 梓の声が高くなる。

「好きな人に振り向いてもらえないとつらいよね」
「そんなこと、華奈さんに言われたくないですっ。華奈さんなんて、恋愛で苦労したことなんかないでしょう!? 見え透いた同情なんて欲しくありませんっ」

 梓が顔を背け、華奈は穏やかな声で言う。

「そんなことないよ。こう見えて私、今までに付き合った男性二人に振られてるの。そのうちの一人には誕生日に手切れの品を渡されたんだよ。ホントに最低な振られ方でしょ」
「嘘」

 梓が横目で華奈を見た。

「ホントだよ。こんな恥ずかしい嘘なんかつかないよ」

 梓は華奈の目をじぃっと見た。華奈は本当だよ、という意味を込めてうなずいた。

「好きな人に想いが届かないって、つらいよね」

 華奈は梓の肩を抱いたまま空を見上げた。もう夕焼けが終わって、空は深い藍色へと染まり始めている。梓の髪に頬を寄せたまましばらくそうしていると、梓が唸るような声を出した。

「うー……ううっ」
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