エリート上司の甘く危険な独占欲
 それが梓の嗚咽だと気づき、華奈は梓をギュッと胸に抱いた。梓は華奈にしがみつき、声を押し殺して泣き出す。華奈は梓が落ち着くまで、ずっと彼女を抱きしめていた。



 どのくらい時間が経っただろうか。すっかり空が暗くなり、夜空とオフィス街の明かりのコントラストが鮮やかになった頃、梓はおずおずと体を離した。

「華奈さん……すみません」
「いいよ。私は大丈夫。梓ちゃん、少しは落ち着いた?」
「はい」

 梓は鼻をグスグスさせながら首を縦に振った。華奈はバッグからポケットティッシュを取り出して、梓に渡す。

「ありがとうございます」

 梓は一度鼻をかんでから、沈んだ声で言う。

「私……一之瀬部長にあんな迷惑をかけちゃって……クビになるでしょうか」
「どうかな。正直に反省した気持ちを伝えたら、一之瀬部長ならわかってくれると思う」
「だといいんですけど……」

 梓が頼りなげに言った。

「私も一緒に行こうか?」

 華奈の申し出を聞いて、梓が首を横に振る。
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