エリート上司の甘く危険な独占欲
「いいえ……。私が自分で撒いたタネですから、自分でちゃんと後始末をします」
「そっか。梓ちゃんは偉いね」
「そんなことないです」
「あるよ。私なんか、大切な言葉を伝えられてないし、人生三度目の失恋の瀬戸際だもん」

 梓がパチパチと瞬きをして、涙がまつげで光った。

「人生三度目? 華菜さんって私より恋愛経験少ないんですね、意外」
「ほっといて~」

 華奈がおどけてみせると、梓はふふっと笑みをこぼした。

「会議室を出て最初にぶつかったのが、華奈さんでよかったです。私、とんでもない過ちを犯すところでした」

 梓は頭を下げた。

「これから一之瀬部長のところに行ってきます」

 華奈がうなずき、梓はエントランスへと歩き出した。後輩の姿を見送り、華奈はカエデの木の幹に背中を預ける。

(今日は嵐のような一日だった)

 華奈が大きく息を吐き出したとき、芝生に誰かが入ってきた。顔見知りなら挨拶をしようかと思って目をこらした華奈は、相手が健太だったので驚いた。

「えっ、健太!?」
「華奈」
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