エリート上司の甘く危険な独占欲
(彼がこんなふうに変わってしまったのは、牧野くんのせい……? 違うね、私と付き合ったからだ。私と付き合わなかったら、牧野くんにひどいことを言われてプライドが傷つくこともなかったはず……)

 華奈の目尻から涙が一筋こぼれた。

「そういう演技は、相変わらずうまいもんだね」

 牧野にキスされたあと、『信じてほしい』と健太に何度も泣いて頼んだ。それでも彼が信じてくれなかったのは、あのときも、今も同じだ。

 健太の手が華奈の顎を掴んだ。その力の強さに痛みと恐怖を覚える。

「やめて、お願い」
「それも男を煽るための演技なんだよな?」

 健太の顔が近づいてきて、華奈は力の限り両腕を突っ張り、彼の胸を押しやろうとした。だが、男性の力には敵わない。彼の唇が迫り、華奈は必死で顔を背けようとした。唇に彼の息がかかり、目をギュッとつぶる。

(もうダメ)

 諦めかけた直後、華奈の顎を掴んでいた健太の手が緩んで離れた。

(なに……?)

 おそるおそる目を開けると、健太は驚いた顔で背後を見ようと首をねじっていた。そしてその健太の肩を、目を怒らせた颯真が後ろから掴んでいる。
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