エリート上司の甘く危険な独占欲
 華奈の口元に苦い笑みが浮かぶ。

 健太に『華菜に惚れてる男だ』と言ってかばってくれたことは嬉しかったが、今はもう健太はいないのだ。

「もうそんなふうに言ってくれなくていいですよ」
「それはどういう意味?」
「だって、私たちって体だけの関係、だったんですよね?」

 そのとき信号が赤になって、颯真がブレーキを踏んだ。

「華奈」

 強い口調で名前を呼ばれ、華奈はビクッと肩を震わせた。

「華奈、俺を見て」

 華奈は膝の上にのせた手をギュッと握って、自分の拳を見つめた。

『忘れてくれるのなら、その方がいい』

 その言葉が引っかかって、彼の顔を見ることができない。

「華奈に惚れてるって俺の言葉、信じられない?」

 彼の声に悲しみが混じった。その言葉に過去の記憶が呼び起こされ、華菜の胸がズキンと痛みを訴える。

(私も健太に信じてもらえなくて、悲しかった。つらかった。でも……)

 華奈は思い切って颯真を見た。

「それなら、どうして初めて一緒に夜を過ごした次の日の朝、『忘れてくれるのなら、その方がいい』って言ったんですか? 部長と過ごした一夜を忘れてくれた方がいいって言われたから、私、部長の恋人にはなれないんだと思ってたんです」
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