エリート上司の甘く危険な独占欲

番外編 運命の始まり

　その日は四月上旬の金曜日だった。颯真は自宅近くのお気に入りのバーで、バーボンをゆっくり飲みながら、聞こえてくるジャズの音色に耳を傾けていた。仕事で疲れた体と心を癒やし、明日へのエネルギーをチャージする。それにぴったりの場所だ。

　彼は目を閉じて、喉を流れていくバーボンの芳醇な香りと深い味わいを楽しむ。ふぅっと息を吐き出したとき、カウンター席のずっと左側から、女性の驚いたような声が聞こえてきた。

「え、ちょ、ちょっと待って。手切れってなんで？」
（ああ、別れ話か）

　まあ、よくあることだな、と思った。彼自身、彼の外見やステータス目当ての女性と、そうとは知らずに付き合って、別れを切り出したことは何度かある。彼の外見やステータスしか好きではない女性と、心が通い合う付き合いなどできなかったし、彼に気に入られようとうわべを取り繕った女性がふと見せる本心に、幻滅させられたこともある。

「華奈は付き合うには最高の女だと思う。美人だしスタイルもいいし、俺の話をすごく興味を持って聞いてくれるしな。だけど、結婚相手には向いていない」